
子供の頃、父はよく板付空港(福岡空港)のターミナルビルにあるロイヤルホストとい
うレストランに連れて行ってくれた。
離着陸する巨大な飛行機を眺めながらハンバーグやカレーを頬張っていると、なんと
も言えず幸せな気分になったものだった。
何歳だったのかは良く覚えていないのだが、ある日、姉や母抜きで二人きりで食事に
出かけたことがあった。
テーブル脇に置かれた小瓶に入った塩を、ハンバーグの隣に並べたライスに振りかけ
ていると、父は僕を見つめながら突然尋ねてきた。
「なんで・・塩をかけるんだ?」
怒っている訳ではないのだが、どこか強い口調だった。
「えっ?だって・・みんなかけてんじゃん・・」
(当時は、なぜかみんなレストランでライスに塩をかけていたのだった)
そう答えながら、
『塩なんていつもかけているのに・・父さんはなんで今日に限って変なことを言うんだ
ろう?』
と思っていると、
「みんなが塩をかけてたら・・おまえは何にでも塩をかけるのか?」
と返してきた。
「いや・・そんなことないけど・・」
そう答えると、父は続けて言った。
「おまえは家でも・・ご飯に塩をかけるのか?」
「いや・・家で食べるときはかけないよ・・」
父はそれ以上は何も言わなかった。
なんとなく気まずい雰囲気になって、僕もそれ以上は何も言わなかったのだが、この
日の出来事は僕の頭の中に強烈に刻まれた・・のだと思う。
その日以来、僕はレストランでライスに塩をかけなくなったから(笑)
父が呼んでいた板付空港という名前は、東京では知る人もほとんど居らず、
ときどき会話の中で言い間違えると、
「えっ?それってどこの空港?」
などと返されることもあるのだが、僕の記憶の中ではロイヤルホストは板付空港と
深く結びついている。
仕事で、東京や横浜の街を道を歩いているときにロイヤルホストを見かけると、
板付空港と、ハンバーグとライスと、塩と、それから父の顔がよみがえって来る。
ずっと後になってから、
『父はなぜあんなことを言ったのだろう?』
と考えたことがあるのだが、当時小学生だった僕の知らないところで、父は慣れない
福岡という土地での仕事や母の病気のことで、随分と思い悩むことがあったのだろう
と思うようになった。いまとなってはそれも僕の勝手な想像に過ぎないのだが(笑)
「流されるな」
と、言いたかったのかも知れない。
ともすれば、流されそうになる自分自身に対して向けた言葉だったのかも知れない。
息子と二人で食事をしているときに、
「父さんが子供の頃は、良くライスに塩をかけて食べたんだよ」
と言うと、
「へぇ・・なんで?意味ないじゃん」
と返されたことがある。
きっと、この日の会話は息子の記憶には残らないと思うが、少なくともあの頃の僕
よりは、息子は流されていないのかも知れない。
それはそれで、ちょっとだけ嬉しく思う。






